企業インタビュー(日本食レストラン「Kei」)

平成28年7月14日

第2回 武藤慶子氏 日本食レストラン「Kei」オーナー

(ECA) 今、クウェートの日本食通の間でその名前を知らない人はいないと言われるレストラン慶ですが、実は今回初めてにお邪魔しました。やはり国内の他のレストランとは違う日本的な雰囲気を感じます。早速ですが、先ずはクウェートという地に、レストラン慶(以下「慶」)が誕生したきっかけから伺いたいのですが?

(武藤社長) 元々は父親が外食産業とはかけ離れた事業をクウェートで行っていました。その頃クウェートには千人以上の日本人が駐在していたにも関わらず日本食を提供するレストランが極めて少なかったために、周囲の日本の方から日本料理屋を開業してほしいという声をいただいて父親が1981年にレストランを開業したのが始まりです。当時、レバノンにあった中東で唯一の日本料理専門店の協力もあり、無事にレストラン事業が始まりました。
(ECA) 先代から経営を引き継がれたわけですが、当然ながら大変なご苦労もあって開業35周年に至ったことと思います。

(武藤社長) 父親からレストラン事業が忙しくなってきたので手伝ってほしいと懇願され、クウェートに自分の拠点を移したのが2001年です。その後、2003年の父親の他界により完全に経営を引き継ぎましたが、その時は父が築いた「慶」のレガシー(経営土台、事業方針)を自分が続けていけるのかということに悩みや迷いはありました。特にスタッフやビジネスパートナーとの信頼関係構築は経営者の資質そのものですので不安は大きかったです。ですが、事業を進めていくに伴い自分なりの運営方法を見出していくことができるようになり、お客様から直接ポジティブな感想や意見を頂くこと、湾岸戦争後に駐留した日本の自衛隊への食事を提供することを通じた復興支援に関与したこと、農林水産省の「おいしい日本プロジェクト」に関わったことなど、一つ一つの積み重ねが自信につながりました。

(ECA) 自衛隊の復興支援の際には、駐留部隊の隊員に「慶」が1日3食を毎日休みなく提供されたとのことで責任も重大だったと思いますが、日の丸の復興支援の一翼を立派に担われたのは素晴らしいと思います。また、「おいしい日本」では第5回日本食海外普及功労者表彰を受賞されています。このように振り返りますと、当初の不安をよそにスマート且つ順調に事業運営をされてきたように見えます。

(武藤社長) 順調なことばかりではありません。2001年に今の場所にレストランを移転させてから暫くは日本食レストランとしては「慶」が独走していましたが、ある時期から、アラブ人向けの味付けを取り入れたフュージョン日本料理店と言われるレストランが流行し、日本人以外のお客様がそちらへ流れて行きました。味としてはフュージョン日本料理の方がこちら現地の人には合うことが分かっていましたので、「慶」としてどこまでフュージョンを取り入れるかどうかに悩みました。そして悩んだ末に伝統的な日本料理を柱としていくことを決断しました。その結果、安定的な和食の味を提供することで、慣れ親しんだレストランとしてお客様に満足いただいていると思っています。

(ECA) この国クウェートでレストランビジネスを行う上で、特異と感じたことがありましたら教えていただけますか?

(武藤社長) クウェートでは一般的に交渉する人が多いですが、驚いたのは食後の会計でも交渉を始める人がいます。とりあえず値切ってみようということかも知れませんが、日本はもちろん欧米でもレストランではあまり無いことですので、最初の頃は戸惑いながら対処していました。また、他に特異な点と言えば、従業員の査証の問題があります。レストランでクウェート人を雇うことはあり得ませんので外国人を雇うことになりますが、様々な制約がありまして簡単に他の店や会社から当社に転職させることが出来ません。特に日本料理店で就労経験のある人は引っ張り合いになってしまいます。

(ECA) 2001年にベースをクウェートに移されてから15年になりますが、武藤社長の目には、クウェートというのはどのように映っていますか?

(武藤社長) クウェート人は、とても時間を優雅に使っている印象です。日本人は「時は金なり」という言葉があるように、なるべく短い時間で仕事や用務を済ませようとしますが、クウェート人は時間がかかっても(かけてもかけられても)気にしない(気にしてくれない)感じがします。その代わり、信頼関係を築くと寛容で親切な人柄を持つ“暖かい人間味”を感じさせます。また、クウェート社会については、先ほどの査証の問題のように社会システム自体は合理的では無い部分もありますが、モノが豊富で生活に困ることも無く、ショッピングモールに行けばクウェートの外に出なくても品揃えは十分だと思いますし治安も悪くありません。暑い砂漠の国というイメージかも知れませんが、どこでも冷房が充実していますし水も豊富で、かなり都会的な暮らしが出来ています。その一方で(美術館やコンサート等)文化面でもう少し充実していたらと思うことはあります。

(ECA) クウェート暮らしの醍醐味は何でしょう?
(武藤社長) 多くの国から多くの人が働きに来ているマルチナショナルな国ですので、食という共通の文化を通して色々な国籍の方々とふれあい、理解を深める貴重な経験が出来ていると思います。クウェートでは、地元の風土に触れながら異文化を体感できます。

(ECA) 本日はお忙しいところありがとうございました。今後も変わらない「慶」の味のご提供、期待しています。